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『若本五郎(わかもとごろう)』は大学教授。務める大学は一流だが、何事も大雑把で面倒くさがりの五郎はその中では落ちこぼれだった。講義は適当、研究は他人任せ、無断欠勤多数など、問題を数え上げればキリがない。それでもこうして五郎が今の地位にいられるのは、元々五郎が無能なわけではなく、ひとたびやる気になればその研究意欲と成果は目を瞠るものがあるということを現理事が知っていて、五郎を気に入っているからだった。そして『立川勝也(たちかわかつや)』という有能な助手に支えられているのも、その要因の一つである。そのワイルドながらどこか愛嬌のある風貌と大雑把な性格が学生の人気を集めているということも関係あるかもしれない。だが、当然ながら五郎の存在に納得できない人物もいた。五郎と同じく考古学の研究を行う女教授、『畑山実路(はたやまみゆき)』もその一人だ。ある日、実路は五郎の大学内における実態をレポートにまとめ、提出した。五郎を大学から追い出すためだ。レポートは会議の場で取り上げられ、教授達の間で問題となった。そのことによって話は理事会でも持ち上がり、こうなっては理事長も庇いきれず、五郎の進退問題にまで発展した。結果、一定期間内に新たな研究とその成果を発表できなければ、大学を追放になることが決定した。五郎は「冗談じゃねえ」と頭を抱えたが、決定事項である以上、なにはともあれ結果を出さなければどうしようもない。勝也の手を借り、すぐさま大学の資料室を漁り始めた。生活がかかっていることが幸いしたのか、久しぶりに五郎の灰色の脳細胞は活性化を始め、膨大な資料の中から気になる記述を見つけ出した。それは、ある男が二つの不思議な玉を使って潮の満ち干きを操ったという伝承だった。しかし、五郎はこの伝承とよく似た話を知っていて、その話は宮崎県の伝承だ。─なぜこんな離れた島に、宮崎県に存在するものとそっくりな伝承が…?長らく沸き起こらなかった研究意欲がこみ上げる五郎。その脳裏には、今まで自分を見下していた実路の悔しそうな顔が描き出されていた─。
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