AutoPostが13年前に投稿 click.duga.jp
昼を回っているにも関わらず、小鳥のさえずりで目が覚めた。もう何度も見た同じ夢。いないはずの姉の記憶。未だにそれが抜け切らないのか、不定期的に夢で見る。幼い頃に姉は亡くなり、今となっては俺ひとり。家族と呼べる誰かもおらず、毎日を自分のためだけに生きている。「ふう。よっこいせ」どさっ──事務所のソファーへ腰をかける。気がつけば、この店に辿り着いていた。習性だとしても、こんな場所まで無意識に移動できてしまうのはどうかと思う。店は『アムール・マルルー』という。少し前に出来たばかりのコスプレ喫茶だ。コスプレ喫茶というのは怪しいが──まあ、まともに営業しているのでそれほど怪しくもない。俺は遅番専用のアルバイトなので、早番の同僚達が終わるまではくつろいでいられる。ガチャ─ 「和也、おはよ」「よう、相方」ソファーに深く腰を埋めた状態で手を挙げる。「珍しく早いな、藍川」「あなたの方こそ早いわね。暇なの?」いきなりふっかける態度の藍川香緒里。彼女がこのコスプレ喫茶『アムール・マルルー』で働く、俺の相方である。どこぞのお嬢様という話も聞く女。 頭脳明晰。明朗快活。勧善懲悪。焼肉定食。 美辞麗句を並べると、キリの無い奴である。変なものが混じっている気もするが、外れてはいまい。 カップル──別に俺と藍川が付き合っている、という意味じゃない。そうだったら死語だ。交代制のアムール・マルルーでは、作業を円滑に終わらせるためという名目で、男女を同一の時間帯、同一の仕事量として振り分ける。……システムの『せい』と言うか、『おかげ』と言うかは微妙なところである。 藍川は俺のことを単なる仕事仲間──あるいは、砕けた言い方で悪友とでも思っているのかもしれないが、こっちはそうじゃない。藍川香緒里は夢の人に似ている。
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